審査を終えて 阿曽 芙実 阿曽芙実築設計事務所 今年は、例年に比べると一次審査の提出物が軽いタッチで、内容を掴みきれないものが多く、評価しづらい印象であった。しかしながら、二次審査で選ばれた作品の発表を聞いていると、よく考えられていて、面白い作品がたくさんあった。 「ナノニ住宅」は、9坪を余すところなく使えていて、身体的な距離感が絶妙に描かれていました。欠点がないことが欠点と思わせるぐらい、完成度の高い作品になっていました。欲を言うとすると、屋根のかけ方を再考することで、既視感のないものにできるのではないかと思いました。 「暮らしと街のひととき」は、壁とスラブでさまざまな居場所を作りながらも、見事な回遊空間をつくり出していました。しかし、こちらも既視感が否めず、この場所にしかできない壁とスラブの並べ方や空間のつくり方、ここだからこの手法を使ったと言えるものがあるとより説得力のある作品になったと思います。 「道にすまう」は、一次審査では、内容が読み取りづらい印象でしたが、二次審査では、気づきの発端となった地域のシーンから説明されたので、よくわかりました。一次審査の資料にも、盛り込まれているとより良かったと思います。共用部の使われ方や、道としての礼儀みたいなものが、設計された建築の中でも、わかりやすく表現されていれば、もっとのめり込めたのではないかと思いました。 「舞台「 」」は、刺激的な建築で、こんな建築がどんな場所に建てば、より似合うのかなど、を審査が終わった後にも、ふと考えさせられる。とても印象的な建築でした。 他の入賞者の作品も、もう一歩踏み込んで、自分自身の「何故」「どうして」「モヤモヤする」を解決する糸口を建築に置き換えることをやってみることで、違う景色が見えてくる瞬間があるのではないかと思いました。 これから、またどこかで皆さんと建築の未来を話し合う機会を楽しみにしております。 河合 哲夫 株式会社竹中工務店 近畿学生住宅大賞は、今年で5回目となった。この5年間の出来事は、住宅設計を取り巻く環境に少なくない影響を与えた。パンデミックを契機に在宅勤務が広がるなど、行動様式の変化を引き起こした。地政学リスク等がもたらした資材価格やエネルギー価格の高騰は住宅事業を圧迫するだけでなく個人の生活志向にも変化をもたらしている。気候変動による影響は拡大し、人口減少と少子高齢化は続いている。家族観の変化も加速した感がある。これらを思いながら学生のみんなの住宅課題を見る5年間であった。 最優秀賞の川向世瞳さんによる「ナノニ住宅」は、わずか9坪ナノニ豊かな住まいをいかに生み出すかに挑む作品である。マルチユースな一室空間により面積上の課題を解決するのではなく、むしろその逆に細分化した空間を立体的に巡りながら生活することで、心理的な広がりを生み出そうという提案である。そのために個々のスペースは最小限となるのだが、機能的に成立するぎりぎりの空間を巧みに構成していく感性に惹かれた。 優秀賞の平出さつきさんの「暮らしと街のひととき」は、離散的に配置した壁と床により空間相互の関係に心地よい関係を作りながら一つの住宅を形作るという案。平面的にも断面的にも難解な空間構成だが、街と住宅内部、住宅の室と室の関係が検討されており、好ましい居心地を生み出すように考えられている。複雑な断面関係も、どうやらギリギリの高さ関係で成立させているようである。 もう一つの優秀賞となった楠部のどかさんによる「道にすまう」は、ランダムに配置した直方体をさらに不規則なスラブによって貫くことで生まれた空間を集合住宅として作り込むというユニークな提案である。この設計プロセスにどういう意義があるのかは、理解できたわけではない。しかし空間を形作る一つの方法として考え出し、やり抜いて見せた力量に可能性を感じた。 奨励賞の伊藤舞織さんの「舞台「 」」は、台形平面による四角錐の住宅で、その全体を膜で覆っている。内部の照明で浮かび上がる膜面に住民の影が映りこむ。その光景の魅力をプレゼンテーションすること一点に全力を注いでいる潔さが、他にはない力強さを感じさせた。 同じく奨励賞の有吉一騎さんの「次代の京都的くらしの手引き」は、多様な機能と建築が混在している京都の街の魅力に着目し、複合用途による開発を魅力あるまちづくりにつなげようとする案である。こうした開発を否定的に捉えて批判するのではなく、それを京都に馴染ませながらまちづくりに貢献するにはどうするべきかという現実的な課題に取り組んだようである。これが想定敷地の場所に相応しいとまでは思えなかったが、難しい課題に挑み、それをまとめ上げた力量を評価したいと思った。 もう一つの奨励賞である峠彩音さんの「みかん段の家」は、みかんを効率良く栽培するために形成された段々畑に着目し、その独特な地盤断面を生かして計画した住宅の提案である。周囲のみかん樹の生育を妨げないために決めたボリュームのおかげで、みかん畑と住宅との力関係が均衡するバランス感が心地よい。プランニングや造形をさらに洗練させていくと魅力が増すと思う。可能であれば時間をかけてスタディを継続してほしいと思わせる作品だった。 環境の変化は新しい課題を生成し続ける。それにより新しい解答を探し続けることとなるのは住宅設計だけではない。しかし、人がそこで生きるという根源的な行為を扱うことから、社会で起きる課題のほとんどは、住宅を考える上で関わらざるを得ないのではないかと、5年間の審査をしながら考えていた。「もうこれで良い」というところに辿り着くことはない、やりがいのある(?)果てしない航海に学生のみんなも漕ぎ出したようだ。 島田 陽 タトアーキテクツ 立ち上げから5年間務めさせていただいた「近畿学生住宅大賞」の審査員も、今年でひと区切り。毎年、事前の資料だけでは読み解けない熱量があり、審査の場で実物を前にハッとさせられることが多いのだが、今年もやはりそうだった。 特に平出さつきさんの「暮らしと街のひととき」は、持ち込まれた大きな模型の迫力に圧倒された。僕自身もスキップフロアの住宅はよく手掛けるのだが、その経験から見ても実によく出来ている。箱を解体するような壁が物理的な囲いをつくりつつ、視線や意識が外へと抜けていく構成。そして放射状の壁と植栽が生む「7つのポケット」が、単なる隙間ではなく、地域や隣人、家族の居場所として明確に定義されている点がいい。僕にとっては馴染み深い手法だけに予想外の提案も欲しくなるが、聞けばまだ2回生とのこと。これからの成長が楽しみだ。 楠部のどかさんの「道にすまう」も、模型を見て理解が深まった作品だ。まず、東大阪・長瀬でのフィールドワークから「庭を持たない家々が、私的空間を道にはみ出させて彩っている」という着眼点を引き出したことが素晴らしい。そこから導かれた、道と床が室内で呼応する様子も楽しいが、いっそもっと道らしい「ひとつながりの床」にしてみても面白かったかもしれない。 川向世瞳さんの「ナノニ住宅」も、審査の場での発見が多かった。2回生の時の課題をやり直した案とのことで、細部までよく練られていた。9坪という極小空間に設けた螺旋状の長い動線は、「物理的な移動距離は長いが、視線や気配の距離は近い」という絶妙な距離感を生んでいる。「1人を味わいながらも家族を感じる」というコンセプトが見事に空間化されていた。建具や柱、棚、床の段差で空間を柔らかく分節する手つきは、壁で仕切るのとは違う、日本的な「奥」の感覚を現代的に再解釈しているようにも感じられた。生成的な屋根の在り方が、内部での暮らしをより豊かにするものであれば、なお良かったと思う。 ほかにも、上空から捉えたような模型写真が美しかった峠彩音さんの「みかん段の家」、模型写真の引力が強かった小村菜々香さんの「大きくて小さな家」も心に残る。形式の可能性を信じてもっと詰めれば、さらに素晴らしい計画になっただろう。 来年からの、この賞の行方を楽しみにしています。 白須 寛規 design SU 建築設計事務所 一次審査は全体の水準が高く評価が拮抗しましたが、二次審査では各案の考え方や個性がより明確に表れ、興味深い審査となりました。シートの表現技術については完成度の高いものが多く、技術面での差は見えにくくなっていると感じます。 一方で、模型や口頭によるプレゼンテーションでは、空間の捉え方や思考の違いがはっきりと表れます。模型を前にして説明することの重要性を、改めて確認する場でもありました。 審査後には多くの参加者が意見を求めて集まり、本賞が学びの場として機能していることを強く感じました。提出して終わりではなく、さらに良くしたいと考える姿勢が印象的でした。 審査を通じて伝えたかったのは、自ら立てた課題に対して、最後まで建築で答え切ることの大切さです。成立の理由を運用や説明に委ねるのではなく、設計そのものによって示そうとする姿勢を、今後も期待しています。 平塚 桂 ぽむ企画 今年の審査ではプレゼンテーションや模型を通じて理解が深まる作品が多く見られた。特に印象的だった作品と、選考過程で感じた雑感をまとめたい。 有吉一騎さんによる「次代の京都的くらしの手引き」は、街並みや政策を踏まえた現実的な提案に驚かされた。「多様性が京都の魅力」との分析に基づき、長い棟を折り曲げ、中庭や吹き抜けを織り込むことで、多様な要素を混ぜ合わせる複合的な集合住宅の提案だった。文章も明快で、「景観条例」や「補助金」といった現代京都の都市政策の事情を把握した上で自らの考えを建築に昇華した骨太な計画は高く評価できる。 伊藤舞織さんによる「舞台「 」」は、住宅を舞台に読み替え、その役割やプライバシーを揺るがす提案だ。透過素材で覆われ、シルエット状に生活がにじみ出る。第一印象ではアートプロジェクトを思わせる軽やかな仮設性が際立つが、軸組は力強く美しい。そしてその姿は、私生活がビッグデータに絡め取られ日常が丸裸にされる現代人を映し出すオブジェとしても解釈可能な、奥行きある提案だった。 峠彩音さんの「みかん段の家」は、表現力と着想に感心した。みかん畑に横たわる住宅を俯瞰するメインパースや、スペインの画家アントニオ・ロペス・ガルシアを引用した導入、そして自由度が高い課題に対する敷地やプログラムの設定も見事だった。 川向世瞳さんの「ナノニ住宅」は、緻密な設計により多様なスペースを包含した提案だ。9坪の住宅設計という課題に対し、驚くほど多様な生活シーンを取り込んだ住宅を実現していた。 入賞作品以外では、シンプルで合理的な構成に内外の交流を促す仕掛けをさりげなく込めた大寺ちひろさんの「はみ出し、交わるくらし」、周辺の植生を丁寧に分析し詳細な設計へとまとめた竹内開偉さんの「アゴノアルイエ」も印象に残った。 なお選考は、書類審査(一次)と現地プレゼンテーション(二次)に分かれていた。私は設計を専門としない唯一の審査員であり、一次審査では、私が選んだ作品が他の審査員と1つも重ならないという事態が発生した。しかし結果的には推薦した作品群の多くが二次審査で一定の評価を得た。そして多様な作品が出揃い、いわゆる設計の巧みさに留まらず、批評性の高さや着眼点の鋭さなどの特徴を持つ作品が見出され、私のような異分野の審査員が異なる価値軸を見出す役割を果たしていることを再認識できた。 「住宅」は普遍性が高い、世界共通の物理的構造物である。しかしそれゆえに空き家問題やシェアリングエコノミー、グローバル経済などさまざまな社会課題に直結し、その姿は揺らぎつづけている。いま住宅という類型が備える一般像を疑い、更新することには強い意義がある。学生のみなさんには柔軟な発想で、かつ広い視野を持って住宅課題に挑んでほしい。 作品集 最優秀賞 作品テーマ ナノニ住宅 川向世瞳 神戸芸術工科大学 優秀賞 作品テーマ 暮らしと街のひととき 平出さつき 京都美術工芸大学 優秀賞 作品テーマ 道にすまう 楠部のどか 近畿大学 奨励賞 作品テーマ 舞台「 」 伊藤舞織 大阪公立大学 奨励賞 作品テーマ 次代の京都的くらしの手引き 有吉一騎 京都美術工芸大学 奨励賞・企業賞大和リース 作品テーマ みかん段の家 峠 彩音 大阪芸術大学 入賞・企業賞建築資料研究社/日建学院梅田校 作品テーマ coexist 形に暮らす 森浦航大 大阪公立大学 入賞 作品テーマ 揺らぐ空間の曖昧性-カーテンによるシェア空間の在り方- 伊藤楓 大手前大学 入賞 作品テーマ はみ出し、交わるくらし 大寺ちひろ 兵庫県立大学 入賞・企業賞積水ハウス 作品テーマ 水縁の家 小野陽菜・亀井悠衣・所司葵 奈良女子大学 入賞 作品テーマ 大きくて小さな家 小村菜々香 滋賀県立大学 入賞 作品テーマ アゴノアルイエ 竹内開偉 京都芸術大学 入賞 作品テーマ 斜交に住まう 横山明日香 立命館大学 企業賞ジョインウッド一級建築士事務所吉田製材 作品テーマ Cymbidium 飯坂亮太 大阪芸術大学 企業賞総合資格 作品テーマ 和楽路 わらじ 田中結菜 福井工業高等専門学校 企業賞ナカムラ 作品テーマ 「ただいま」がきこえる 藤木睦実 滋賀県立大学 企業賞安田 作品テーマ ニワで繋がる 清家彩花 近畿大学 企業賞山弘 作品テーマ と、と、と、 寺村泰則 畿央大学
阿曽 芙実
阿曽芙実築設計事務所
今年は、例年に比べると一次審査の提出物が軽いタッチで、内容を掴みきれないものが多く、評価しづらい印象であった。しかしながら、二次審査で選ばれた作品の発表を聞いていると、よく考えられていて、面白い作品がたくさんあった。
「ナノニ住宅」は、9坪を余すところなく使えていて、身体的な距離感が絶妙に描かれていました。欠点がないことが欠点と思わせるぐらい、完成度の高い作品になっていました。欲を言うとすると、屋根のかけ方を再考することで、既視感のないものにできるのではないかと思いました。
「暮らしと街のひととき」は、壁とスラブでさまざまな居場所を作りながらも、見事な回遊空間をつくり出していました。しかし、こちらも既視感が否めず、この場所にしかできない壁とスラブの並べ方や空間のつくり方、ここだからこの手法を使ったと言えるものがあるとより説得力のある作品になったと思います。
「道にすまう」は、一次審査では、内容が読み取りづらい印象でしたが、二次審査では、気づきの発端となった地域のシーンから説明されたので、よくわかりました。一次審査の資料にも、盛り込まれているとより良かったと思います。共用部の使われ方や、道としての礼儀みたいなものが、設計された建築の中でも、わかりやすく表現されていれば、もっとのめり込めたのではないかと思いました。
「舞台「 」」は、刺激的な建築で、こんな建築がどんな場所に建てば、より似合うのかなど、を審査が終わった後にも、ふと考えさせられる。とても印象的な建築でした。
他の入賞者の作品も、もう一歩踏み込んで、自分自身の「何故」「どうして」「モヤモヤする」を解決する糸口を建築に置き換えることをやってみることで、違う景色が見えてくる瞬間があるのではないかと思いました。
これから、またどこかで皆さんと建築の未来を話し合う機会を楽しみにしております。
河合 哲夫
株式会社竹中工務店
近畿学生住宅大賞は、今年で5回目となった。この5年間の出来事は、住宅設計を取り巻く環境に少なくない影響を与えた。パンデミックを契機に在宅勤務が広がるなど、行動様式の変化を引き起こした。地政学リスク等がもたらした資材価格やエネルギー価格の高騰は住宅事業を圧迫するだけでなく個人の生活志向にも変化をもたらしている。気候変動による影響は拡大し、人口減少と少子高齢化は続いている。家族観の変化も加速した感がある。これらを思いながら学生のみんなの住宅課題を見る5年間であった。
最優秀賞の川向世瞳さんによる「ナノニ住宅」は、わずか9坪ナノニ豊かな住まいをいかに生み出すかに挑む作品である。マルチユースな一室空間により面積上の課題を解決するのではなく、むしろその逆に細分化した空間を立体的に巡りながら生活することで、心理的な広がりを生み出そうという提案である。そのために個々のスペースは最小限となるのだが、機能的に成立するぎりぎりの空間を巧みに構成していく感性に惹かれた。 優秀賞の平出さつきさんの「暮らしと街のひととき」は、離散的に配置した壁と床により空間相互の関係に心地よい関係を作りながら一つの住宅を形作るという案。平面的にも断面的にも難解な空間構成だが、街と住宅内部、住宅の室と室の関係が検討されており、好ましい居心地を生み出すように考えられている。複雑な断面関係も、どうやらギリギリの高さ関係で成立させているようである。
もう一つの優秀賞となった楠部のどかさんによる「道にすまう」は、ランダムに配置した直方体をさらに不規則なスラブによって貫くことで生まれた空間を集合住宅として作り込むというユニークな提案である。この設計プロセスにどういう意義があるのかは、理解できたわけではない。しかし空間を形作る一つの方法として考え出し、やり抜いて見せた力量に可能性を感じた。
奨励賞の伊藤舞織さんの「舞台「 」」は、台形平面による四角錐の住宅で、その全体を膜で覆っている。内部の照明で浮かび上がる膜面に住民の影が映りこむ。その光景の魅力をプレゼンテーションすること一点に全力を注いでいる潔さが、他にはない力強さを感じさせた。
同じく奨励賞の有吉一騎さんの「次代の京都的くらしの手引き」は、多様な機能と建築が混在している京都の街の魅力に着目し、複合用途による開発を魅力あるまちづくりにつなげようとする案である。こうした開発を否定的に捉えて批判するのではなく、それを京都に馴染ませながらまちづくりに貢献するにはどうするべきかという現実的な課題に取り組んだようである。これが想定敷地の場所に相応しいとまでは思えなかったが、難しい課題に挑み、それをまとめ上げた力量を評価したいと思った。 もう一つの奨励賞である峠彩音さんの「みかん段の家」は、みかんを効率良く栽培するために形成された段々畑に着目し、その独特な地盤断面を生かして計画した住宅の提案である。周囲のみかん樹の生育を妨げないために決めたボリュームのおかげで、みかん畑と住宅との力関係が均衡するバランス感が心地よい。プランニングや造形をさらに洗練させていくと魅力が増すと思う。可能であれば時間をかけてスタディを継続してほしいと思わせる作品だった。
環境の変化は新しい課題を生成し続ける。それにより新しい解答を探し続けることとなるのは住宅設計だけではない。しかし、人がそこで生きるという根源的な行為を扱うことから、社会で起きる課題のほとんどは、住宅を考える上で関わらざるを得ないのではないかと、5年間の審査をしながら考えていた。「もうこれで良い」というところに辿り着くことはない、やりがいのある(?)果てしない航海に学生のみんなも漕ぎ出したようだ。
島田 陽
タトアーキテクツ
立ち上げから5年間務めさせていただいた「近畿学生住宅大賞」の審査員も、今年でひと区切り。毎年、事前の資料だけでは読み解けない熱量があり、審査の場で実物を前にハッとさせられることが多いのだが、今年もやはりそうだった。
特に平出さつきさんの「暮らしと街のひととき」は、持ち込まれた大きな模型の迫力に圧倒された。僕自身もスキップフロアの住宅はよく手掛けるのだが、その経験から見ても実によく出来ている。箱を解体するような壁が物理的な囲いをつくりつつ、視線や意識が外へと抜けていく構成。そして放射状の壁と植栽が生む「7つのポケット」が、単なる隙間ではなく、地域や隣人、家族の居場所として明確に定義されている点がいい。僕にとっては馴染み深い手法だけに予想外の提案も欲しくなるが、聞けばまだ2回生とのこと。これからの成長が楽しみだ。
楠部のどかさんの「道にすまう」も、模型を見て理解が深まった作品だ。まず、東大阪・長瀬でのフィールドワークから「庭を持たない家々が、私的空間を道にはみ出させて彩っている」という着眼点を引き出したことが素晴らしい。そこから導かれた、道と床が室内で呼応する様子も楽しいが、いっそもっと道らしい「ひとつながりの床」にしてみても面白かったかもしれない。
川向世瞳さんの「ナノニ住宅」も、審査の場での発見が多かった。2回生の時の課題をやり直した案とのことで、細部までよく練られていた。9坪という極小空間に設けた螺旋状の長い動線は、「物理的な移動距離は長いが、視線や気配の距離は近い」という絶妙な距離感を生んでいる。「1人を味わいながらも家族を感じる」というコンセプトが見事に空間化されていた。建具や柱、棚、床の段差で空間を柔らかく分節する手つきは、壁で仕切るのとは違う、日本的な「奥」の感覚を現代的に再解釈しているようにも感じられた。生成的な屋根の在り方が、内部での暮らしをより豊かにするものであれば、なお良かったと思う。
ほかにも、上空から捉えたような模型写真が美しかった峠彩音さんの「みかん段の家」、模型写真の引力が強かった小村菜々香さんの「大きくて小さな家」も心に残る。形式の可能性を信じてもっと詰めれば、さらに素晴らしい計画になっただろう。
来年からの、この賞の行方を楽しみにしています。
白須 寛規
design SU 建築設計事務所
一次審査は全体の水準が高く評価が拮抗しましたが、二次審査では各案の考え方や個性がより明確に表れ、興味深い審査となりました。シートの表現技術については完成度の高いものが多く、技術面での差は見えにくくなっていると感じます。
一方で、模型や口頭によるプレゼンテーションでは、空間の捉え方や思考の違いがはっきりと表れます。模型を前にして説明することの重要性を、改めて確認する場でもありました。
審査後には多くの参加者が意見を求めて集まり、本賞が学びの場として機能していることを強く感じました。提出して終わりではなく、さらに良くしたいと考える姿勢が印象的でした。
審査を通じて伝えたかったのは、自ら立てた課題に対して、最後まで建築で答え切ることの大切さです。成立の理由を運用や説明に委ねるのではなく、設計そのものによって示そうとする姿勢を、今後も期待しています。
平塚 桂
ぽむ企画
今年の審査ではプレゼンテーションや模型を通じて理解が深まる作品が多く見られた。特に印象的だった作品と、選考過程で感じた雑感をまとめたい。
有吉一騎さんによる「次代の京都的くらしの手引き」は、街並みや政策を踏まえた現実的な提案に驚かされた。「多様性が京都の魅力」との分析に基づき、長い棟を折り曲げ、中庭や吹き抜けを織り込むことで、多様な要素を混ぜ合わせる複合的な集合住宅の提案だった。文章も明快で、「景観条例」や「補助金」といった現代京都の都市政策の事情を把握した上で自らの考えを建築に昇華した骨太な計画は高く評価できる。
伊藤舞織さんによる「舞台「 」」は、住宅を舞台に読み替え、その役割やプライバシーを揺るがす提案だ。透過素材で覆われ、シルエット状に生活がにじみ出る。第一印象ではアートプロジェクトを思わせる軽やかな仮設性が際立つが、軸組は力強く美しい。そしてその姿は、私生活がビッグデータに絡め取られ日常が丸裸にされる現代人を映し出すオブジェとしても解釈可能な、奥行きある提案だった。
峠彩音さんの「みかん段の家」は、表現力と着想に感心した。みかん畑に横たわる住宅を俯瞰するメインパースや、スペインの画家アントニオ・ロペス・ガルシアを引用した導入、そして自由度が高い課題に対する敷地やプログラムの設定も見事だった。
川向世瞳さんの「ナノニ住宅」は、緻密な設計により多様なスペースを包含した提案だ。9坪の住宅設計という課題に対し、驚くほど多様な生活シーンを取り込んだ住宅を実現していた。
入賞作品以外では、シンプルで合理的な構成に内外の交流を促す仕掛けをさりげなく込めた大寺ちひろさんの「はみ出し、交わるくらし」、周辺の植生を丁寧に分析し詳細な設計へとまとめた竹内開偉さんの「アゴノアルイエ」も印象に残った。
なお選考は、書類審査(一次)と現地プレゼンテーション(二次)に分かれていた。私は設計を専門としない唯一の審査員であり、一次審査では、私が選んだ作品が他の審査員と1つも重ならないという事態が発生した。しかし結果的には推薦した作品群の多くが二次審査で一定の評価を得た。そして多様な作品が出揃い、いわゆる設計の巧みさに留まらず、批評性の高さや着眼点の鋭さなどの特徴を持つ作品が見出され、私のような異分野の審査員が異なる価値軸を見出す役割を果たしていることを再認識できた。
「住宅」は普遍性が高い、世界共通の物理的構造物である。しかしそれゆえに空き家問題やシェアリングエコノミー、グローバル経済などさまざまな社会課題に直結し、その姿は揺らぎつづけている。いま住宅という類型が備える一般像を疑い、更新することには強い意義がある。学生のみなさんには柔軟な発想で、かつ広い視野を持って住宅課題に挑んでほしい。